寄生虫感染症・腫瘍

寄生虫感染

疥癬症

疥癬症はヒゼンダニによって激しい痒み、赤いブツブツ、脱毛、フケといった症状が現れる皮膚病です。このダニは、皮膚に穴を掘って卵を産み付け、幼ダニが採食のために皮膚表面に穴を掘っていきます。また、毛が少ない皮膚を好むため、耳、肘、腹部、足根部に最も多く寄生し、病気が進行する皮膚の大部分にダニが寄生することになります。特に免疫が弱い時に感染すると、ダニが大繁殖しやすくなりますので、仔犬、仔猫、老犬、病弱な動物などは特に気をつけなければなりません。予防方法としては、毎月の予防薬を投与することが重要です。また、感染した犬や猫に触れると人にも感染しますので気をつけてください。

毛包虫症

毛包虫症は、ニキビダニが動物の毛包や皮脂腺に寄生して発症する皮膚病です。このダニは、生涯を通じて寄生した宿主の皮膚で過ごすことになります。実は、健康な動物の皮膚にも少しだけ存在していますが、普段は宿主の抵抗力によって大きな症状が出ることはありません。しかし、宿主の抵抗力が低下することがあると、一気に繁殖し、毛包虫症が発症します。症状としては、脱毛、皮膚がはがれ落ちる、皮膚の化膿などがあります。ニキビダニ感染だけでは大きな症状がなくても、他の細菌や寄生虫の感染が同時に起きると、かゆみが激しくなります。

鞭虫症

犬鞭虫が大腸に寄生して、粘液や血が混ざった下痢便を少量ずつ何度もするようになる病気です。また、貧血になることも多々あります。この病気は、感染した犬の糞と一緒に出てきた卵が、他の犬の口に入ることで感染します。なお、親犬から仔犬への胎盤感染はありません。症状が酷くなると、回腸、結腸、小腸にも寄生するようになり、症状が悪化していきます。駆虫薬で治療をしますが、繰り返しの服用が必要なこともあります。

糞線虫症

糞線虫症は、2mm程の細長く白色糸状の形状の糞線虫が、イヌ、ネコ、サル、ヒトなどの小腸に寄生する病気です。腸の中で卵が孵化して幼虫として糞と一緒に身体の外に出てきて、再び動物の口や皮膚から寄生します。成犬が感染してもほとんど症状がないこともありますが、場合によっては下痢になることもあります。また、仔犬の場合は激しい下痢が発生し、発育不良、体重低下に繋がります。生後間もない子犬の場合は、急性出血性の腸炎によって、命を落とすこともあります。治療方法としては、駆虫薬の投与がありますが、1回だけでは全ての糞線虫を駆虫できないこともあるため、何度か検査を続けながら、薬の再投与を行っていきます。糞線虫症は人にも感染しますので、感染動物の糞を処理する時などは、使い捨てゴム手袋を使用しましょう。

条虫症

条虫は犬や猫の消化管に寄生する、頭部と平らな身体からできている虫です。感染しても、健康な成犬なら無症状で済むことが多いのですが、多数の条虫が寄生した場合や子犬に寄生した場合には、削痩、被毛粗剛、貧血、腸炎、下痢といった症状が見られるようになります。この虫に寄生すると、排出片節が肛門付近で動くようになるため、後ろ足を前に伸ばして肛門を地面に擦り付けるような動作をしようとします。この虫は動物から動物へ感染することはなく、ノミやシラミといった中間宿主の中で発育します。そのため、ノミを予防することが条虫症の予防にも繋がります。さらに月に一度は、薬の投与をするようにしましょう。

鉤虫症

鉤虫は、犬や猫の消化管に寄生する虫で、成虫が小腸に寄生して卵は糞と一緒に排泄されます。感染経路は、成熟虫卵や幼虫を食べること、皮膚や足の裏から侵入すること、幼虫が母親の子宮から胎仔に移行したりすることなどが挙げられ、感染すると酷い貧血を起こします。特に若い動物、弱っている動物、栄養状態の悪い動物の場合は、死に至ることもあります。治療方法としては、駆虫薬と注射を用い、貧血が酷い場合には輸血をすることもあります。

回虫症

回虫は、長さ5~15cmぐらいの細長くて白い虫です。これが妊娠している犬に寄生すると、胎児の腸管を経て生まれてくる子犬にも感染してしまいます。成犬の場合は免疫が付いているためあまり症状が見られない傾向にありますが、腸内で寄生は続けています。また、子犬の場合は、腹部の膨満、貧血、嘔吐、下痢といった症状が見られ、寄生数が増えると腸閉塞、痙攣、麻痺などの神経症状まで発症してしまいます。駆虫薬で治療をしますが、体内移行中の回虫には効果がない薬もありますので、2〜3週間後には再検査して、必要に応じて2回目の投与をします。

マダニ感染症

マダニは、木や草の葉先に生息しており、犬が歩いている時などに毛に付着して皮膚から血を吸います。体表に豆くらいの大きさの光沢がある赤黒い色をした虫が付着していたら、それがマダニです。血を吸ってない時は、2〜3ミリ程度に縮んで素早く動きます。寄生箇所としては、目のふち、耳の付け根、頬、肩、足先、足の裏などが多く、場合によっては数十匹〜数百匹ものマダニが寄生していることもあります。マダニは犬の命に関わるバベシアという病原体を伝播することもあるうえヒトの住環境へマダニが持ち込まれることで、ヒトのマダニ媒介性感染症である、重症熱性血小板減少症(SFTS)や日本紅斑熱などのリスク要因となるため、十分な注意が必要です。毎月の投薬を欠かさないようにし、予防を続けていきましょう。

ツメダニによる皮膚炎

ツメダニは、イヌ、ネコ、ウサギ、ヒトの皮膚の表層に寄生して炎症を起こります。感染したこれらの動物は、フケが溜まる、皮膚の赤みが出る、毛が抜ける、強い痒みといった症状が現れ、直接接触すると、他の動物にも広がっていきます。ツメダニは卵から成虫になるまで表皮で生活しますので、駆虫薬やシャンプーで清潔にして予防しましょう。

シラミの寄生

シラミは、犬や猫の体表に寄生して、強い痒みを引き起こします。そして、掻き過ぎて皮膚に傷ができることや毛が抜けることがあります。場合によってはその傷に細菌が感染してさらに症状が悪化します。接触感染がほとんどで、複数の動物を飼っていると一気に感染してしまいます。寄生数が増えると貧血になることもありますので、駆虫薬と薬浴でしっかりと治療をしていきましょう。

ジアルジア症

ジアルジア症は、ジアルジアと呼ばれる虫が小腸に寄生する病気で、糞、尿、水から感染します。症状としては、子犬の場合は、下痢、体重減少、発育不良などがありますが、成犬ではほとんどありません。この虫は完全に駆除するのが難しく、薬剤への耐性を示すこともあるため、数を減らしながら、免疫力を上げる治療を行っていくことになります。

コクシジウム症

コクシジウムは腸に寄生する原虫で、子犬が感染すると、下痢、粘液便、血便、食欲低下、脱水症状といった症状が見られるようになります。健康な子犬の便からもこの虫が見つかることがありますが、通常は症状が出ておらず、何かのストレスがかかった時などに増殖して発症します。完全除去は難しい寄生虫ですので、薬剤投与で数を減らし、免疫力増加を促す治療を行っていきます。

腫瘍

肛門周囲腺腫

肛門周囲腺腫は、犬の肛門の近くにできる腫瘍で、8才以上のオス犬がよく発症します。良性と悪性があり、メスの場合は悪性の肛門周囲腺癌であることがほとんどです。大きな腫瘍ができると出血が見られるようになり、肛門を圧迫して排便を困難にすることもあります。悪性の場合は、リンパ節、腹腔内臓器、脊椎へ転移してしまうこともあります。良性の場合でも悪性に変化することがありますので、摘出手術をすすめます。なお、この病気は雄性ホルモンが関係しているため、去勢することで予防することができると考えられています。

毛包上皮腫

毛包上皮腫は、黄色で顆粒状の物質で満たされた複数の小さな腫瘍の固まりです。犬が発症することが多く、良性のものも悪性のものもあります。どの年齢でも発生はしますが、特に中齢期以降に多く、犬種別では、バセット・ハウンド、アイリッシュセッター、スタンダードブードル、イングリッシュ・スプリンガースパニエル、ゴールデンレトリーバーなどでよく見られます。外科手術による治療を行いますが、一度この腫瘍ができると、他の部位にも発生することがあります。悪性の毛包上皮腫は稀ではありますが、もし発症すると腫瘍が皮膚表面に広がり、広範囲の炎症、組織壊死、線維症などが見られるようになります。

肥満細胞腫

肥満細胞腫とは、アレルギー反応、炎症反応、免疫反応に関与している細胞のことで、刺激や痒みの原因となるヒスタミンや、ショックを引き起こしてしまう化学物質を分泌するという特徴があります。なお、この細胞の形や大きさは様々で、見た目だけでは診断できません。触りすぎると細胞の中にあるヒスタミンやその他の化学物質が分泌され、じんましんのように赤く膨れることがあります。また、ヒスタミンが血液中に多く流れ出すと、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、嘔吐、下痢、血液凝固障害などの症状が見られるようになります。

皮膚組織球腫

皮膚組織球腫は、犬に見られる良性の腫瘍で、犬以外の動物に発症することはありません。頭部、顔面、耳、四肢に腫瘍が発生します。腫瘍の大きさは2.5センチ以下で、光沢があるのが一般的です。前足は舐めて潰瘍化してしまうこともありますので注意しましょう。治療をしなくても腫瘍の周りにリンパ球が集まってくることで消滅することが多いのですが、場合によってはコルチコステロイド剤で縮小させます。

乳腺腫瘍

犬の乳腺腫瘍

乳腺腫瘍はメス犬が発症する全ての腫瘍のおよそ50%を占め、悪性と良性の両方の腫瘍が存在します。また、悪性の場合はリンパ節や肺などの臓器に転移することもあります。原因としてはホルモンの影響が考えられており、特に避妊手術をしていない犬や避妊手術をするのが遅かった犬で発症しやすい傾向にあります。なお、オスに発症することはほとんどありません。

猫の乳腺腫瘍

猫の場合は、乳腺腫瘍のおよそ80%が悪性腫瘍で、犬と同じように避妊していない猫によく発症します。そのため、予防方法として避妊手術が考えられています。

腫瘍の治療

外科手術

腫瘍に対する治療のほとんどは外科的な手術で、特に腫瘍が発生した部位に留まっている時は、唯一の治療方法だと言えます。もちろんその目的は腫瘍細胞を全て取り除くことで、場合によっては腫瘍を取り除くことで見た目を改善したり、生活しやすくしたりすることもあります。外科手術を行う時は、放射線療法や化学療法といった他の治療方法と併用することも多くあります。なお、取り除いた腫瘍は、病理組織検査によって、良性か悪性かの判断が可能になります。

放射線療法

高エネルギーの放射線を腫瘍だけを狙って照射し、癌細胞を破壊します。これだけを行うこともありますが、外科手術後で取りきれなかった癌細胞を狙うこともあります。一度だけの照射では効果が薄いため、何回かに分けて照射を続けることが必要で、癌の種類によっても効果がことなります。

化学療法

化学療法は、抗癌剤によって腫瘍細胞を攻撃する治療方法です。化学療法のみを行うこともあれば、外科手術や放射線療法と併用することもあります。化学療法では、完全に除去することはできなくても、悪化や転移を防ぐ効果が期待できます。ただし、正常な細胞も攻撃してしまうため、副作用を伴うという欠点もあります。

免疫療法

身体の免疫システムに癌細胞の情報を与えて、攻撃させる治療方法です。癌細胞を抗原とするワクチンによって、免疫細胞の産生を活性化していきます。

漢方

身体が本来持つ自然治癒力や免疫力を活性化させる治療方法で、副作用が少ないため外科手術や化学療法と併用されることもあります。ただし漢方だけで癌細胞を完全に死滅させるのは難しいでしょう。

脂肪組織の病気

脂肪細胞も病気になることがあり、炎症や腫瘍などが発生します。

脂肪腫

脂肪腫は、脂肪分の多い腫瘍で良性であることが分かっています。年を取った肥満のメス犬に発症することが多く、腹部、胸部、内股などの皮膚に発症して少しずつ大きくなっていきます。脂肪腫は見た目だけで判断することが難しいため、組織の一部を採取して、病理検査を実施します。なお、良性だからと言って安全であるわけではないので、小さいうちに手術で切除することが重要です。

脂肪肉腫

脂肪肉腫になる犬はあまり多くはありませんが、一部の年を取ったオス犬で発症することがあります。胸や足にできることが多く、悪性ですが転移することが少ない悪性腫瘍です。

無菌性結節性脂肪織炎

この病気は、皮下脂肪組織における炎症性疾患で、特にミニチュアダックスフンドで発生しやすい傾向にあります。原因は分かっておらず、免疫介在性の可能性が考えられています。症状としては、身体にしこりが発生し、少しずつ大きくなり、他の部位にも同じようなしこりができることがあります。また、しこりが破裂すると、膿が出てきて飼い主が気付くということが多いようです。治療としては外科切除を行うことになり、免疫抑制療法も併せて実施することもあります。

悪性リンパ腫

悪性リンパ腫は、リンパ様細胞の異常増殖が原因で様々な症状が発生する病気です。リンパ球やリンパ節で発生し、腫瘍細胞が他の臓器にも浸透していきながら増殖し、機能障害を発生させてしまうこともあります。治療が遅くなると命に関わることもありますので、早期治療が重要です。なお、「多中心型」は犬では最も多いタイプで、下顎、脇の下、内股、膝裏などに腫脹が発生します。「消化器型」はリンパ節に発生して、嘔吐、腹痛、胃の不快感などの症状が見られるようになり、「皮膚型」は皮膚に潰瘍が発生し、「縦隔型」では胸腔内に腫瘍が発生して呼吸困難などの症状が出てきます。「リンパ節外型」は、腎臓、中枢神経系、皮膚などに発生することが分かっています。リンパ腫は治療を何もしないと、4〜6週間で死に至るため、すぐに治療を初めて病気の進行を抑えるようにしましょう。治療方法としては、外科手術で可能な限り腫瘍を取り出しますが、リンパ腫は全身性疾患のため、化学療法が非常に有効です。

ブン動物病院監修動物あんしん診療ナビ
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